院長コラム

美味しく食べること

最近、コロナ禍で受診を控えていた方が久しぶりに来院されて歯周病や虫歯が進行してしまった方が多くなったと感じます。特に高齢の方は外出する機会減少して運動不足になったり、生活が変化しています。食事もお一人で食べる方は偏ったメニューになったり人と話す機会も減ってしまったと言う方もいらっしゃいます。こんな状況だと10年いや数年は痛くなくて美味しく食べられればそれでいいと良く言われます。
この美味しく食べられるってどういうことでしょうか?歯で咬めれば良いのか?食べ物は口に入れて咀嚼したものを口腔内で回して味わって初めて美味しいと感じることが出来ます。この味わう味覚について少しお話ししたいと思います。
味覚には甘味、うま味、塩味、苦味酸味があります。
この五基本味を舌、軟口蓋、咽頭、喉頭に約8000個分布する味蕾と言われるセンサーでキャッチします。甘味、うま味、塩味は糖などのカロリー源、タンパク質を構成するアミノ酸源、ナトリウムイオンなどのミネラル源の情報となってそれらの栄養物質をおいしいと感じとり摂取しています。
苦味、酸味は身体に害を及ぼす可能性がある毒物や腐敗物の情報となってこれらの物質をまずいと感じ本能的に回避します。味覚の情報が味神経に伝わり延髄孤束核視床から様々な領域に伝達されます。味の識別、認知を大脳皮質味覚野、おいしい、まずいは扁桃体、摂食調節は視床下部、それらを記憶、学習は海馬など脳で味わってる部分もあると言えます。
また、激しい運動で汗をかいて塩分が不足している時には普段より塩味が強い食品を摂取してもおいしく感じるのは体内の栄養情報が口腔、脳にフィードバックされ塩味感受性が変化した結果だと言われてます。
「おいしい料理に舌鼓を打つ」の舌の前方 側方 後方のどこでも味蕾が五基本味を感じ取っています。しかし場所により感じやすい味覚があり 甘味、塩味は舌前方、苦味とうま味は舌後方が優位だと言われてます。やはり「ビールの苦味はのどごしで味わう」は正解だったのです。
近年、味覚障害の患者数が1990年14万人、2003年24万人、2019年27万と急増しています。男性より女性に多く40%が65 歳以上です。
味覚障害は薬剤性、亜鉛欠乏性、末梢神経障害、中枢神経障害、全身疾患に伴うもの、放射線治療に伴うもの、心因性などが複雑に重なり合いっていることが多いと言われています。
口腔内では様々な理由で唾液の分泌が減少すると消化酵素などにより食品中の味物質を溶解させて味蕾に伝えることが出来なくなります。また口腔衛生管理が悪いと舌が舌苔で覆われて味物質が味蕾に届かないことでも味覚障害が起こります。
最近話題になった新型コロナウィルスは肺だけでなく唾液腺に感染しウィルスを増殖し味蕾にも感染して味覚障害を起こしているとのことです。特に高齢者が感染した時にウィルスを多く含んだ唾液を誤嚥して肺炎の重症化リスクにつながっていると考えられてます。口腔内のプラークは全身疾患とも関係があるとも言われてます。
歯磨きだけでなく舌ブラシを使ってケアを行うことも重要です。
また、口腔乾燥することにより舌が萎縮して味覚に変化が起きたり唾液に味を感じたり、口臭が気になったり、舌の痛みを訴える人もいます。
味覚には様々なことが複雑に関係しています。
食べる、味わう、話す、飲み込むこと、呼吸や睡眠など口腔機能を良好にして皆様のQOLの向上にお役に立てればと思います。